ルパンから赤い月の話を聞いて数日後、ジャリジャリと音を立て五右ェ門はゆっくりと歩いていた。
遠くに見える大きな屋敷―――そこは、先日話していた博物館ではなく、脅迫まがいのことをし強引に交渉に打ち勝った大金持ちの屋敷だった。
その屋敷を見、五右ェ門は足を止めた。
足元には大小様々な大きさの石がたくさん転がっていて、大きな岩などもあちらこちらに見えた。
大きく息を吸い、五右ェ門は空気の微かな変化を読み取り灰色の空を見上げた。
『(空気が重い…。じきに雨が降るな…。)』
そう思い、近くにあった岩の陰に五右ェ門は身を潜めた。
斬鉄剣を右手に持ち、あぐらをかいて目をつむる。
灰色だった空は黒色を増し、ついには大きくうねり始めた。
地面にはポツリ、ポツリ、と黒い点ができ、小石の色は鈍くなる。岩にも丸いシミが増える。
ポツポツと降っていた雨は次第に激しさを増し、ついに地面の色は全て変わった。
五右ェ門の肌を雨が伝う。毛先から雫が落ちる。
雨が頬を濡らしても、風が冷たく重さを増しても、五右ェ門は決してそこから動かずに、ただ目をつむって考えていた。
今回の仕事は大きい。リスクもそれ相応にある。
とにかく集中することが大切だった。
あの大きな屋敷に、赤い月は眠っている。厳重な警備に囲まれながら。

『姫はね、おっかないオジサン達に囲まれて眠ってるの。オジサン達は姫を守る為なら平気で人も殺しちゃうから気を付けてね。』

赤い月を姫などと呼んで、ルパンは五右ェ門にこう言ってみせた。
こんな言い方だったが、仕事の前に命の危険をわざわざ知らされたのはこれが初めてだった。
『(あの屋敷…何か相当すごい仕掛けがあるのだろう…。)』
五右ェ門は岩陰から顔を出し、また屋敷を見つめていた。
雨が、降っていた。
背後に、誰かが…五右ェ門を――――――――――――。

雨は、ただ降り続けていた。



 








後書き
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まだまだ続きますよー!
雨も結構好きです。