「五右ェ門遅ぇなぁ…」
雨の中、ルパンがポツリと呟く。
二人が落ち合うはずの場所には赤いジャケットの男が一人だけだった。
もう約束の時間を一時間も過ぎる…。
いつもなら五右ェ門が先に居て、
「ごめん五右ェ門ちゃん、遅くなっちゃった。」
「いや、そうでもない。」
というやりとりが交わされていた。
そのやりとりは必ずで、五右ェ門が遅れることは絶対にないことだった。
なのに、もう一時間も……。
まだ二人が屋敷に乗り込む時刻ではないから、怖いオジサン達に捕まった可能性は低い。
もう既に一人で乗り込んでしまったのだろうか。いや、五右ェ門に限ってそれは絶対にない。そんな無計画で俺を裏切るような事は、絶対五右ェ門はしない。
その事にはやけに自信があるルパンは、なんだか嫌な胸騒ぎがして、五右ェ門が偵察に出ていた場所に急いで向かった。
雨はなかなか止まない。
ルパンは車をとばした。

五右ェ門が偵察に来ていた場所に、彼の姿は……なかった。
ルパンの胸騒ぎは大きくなる。雨の音も大きくなる。
砂利の上で雨に打たれている斬鉄剣が転がっていた。
「五右ェ門…?」
ルパンの小さな声は、雨の音にかき消された。
斬鉄剣を拾い上げ、ルパンはギュッと握りしめた。
主人の安否は、いつも側にある剣でさえ知りえなかった。
雨が、ザーザーと降り続ける。
ルパンの足元を、一匹のネズミが走り去った。
「(…ネズミ)」
ルパンの頭にネズミ族の姿が浮かぶ。
五右ェ門が連れ去られたとしたら、犯人は彼らしか―――いなかった。
だが、奴らは何処に行ったのか…。
雨が、五右ェ門の匂いを消した。
斬鉄剣の涙のように、切っ先から雫が落ちた。



 








後書き
―――――――――――――――――――――――――――
まだまだ続きます。
ネズミを知らない方は本当に申し訳ありません…!
新ルに出てくるルパン一家の敵なので御座います。