「…。で、五右ェ門が何処に行ったのかサッパリって訳だな」
次元がいつものパイプ椅子に座り、珍しく煙草も吸わずにルパンに訊いた。
「あぁ。」
雨に濡れたまま、ただずっと斬鉄剣を握りしめて座っているだけのルパンは答えた。
赤いソファにもじんわりと水が滲み、赤褐色になったソファはやけに重たそうだった。
そんなルパンを見て、次元はただ痛々しさを感じるばかりだった。
窓の外にはまだ雨が降り続いている。
窓ガラスを伝う雫が、外の風景を歪ませた。
「だけどよ、五右ェ門はネズミに拉致されたんじゃねぇのか?」
また次元が尋ねる。ルパンの答えはさっきと同じものだった。
「あぁ。」

五右ェ門を見つけようとすれば、それは簡単なことだった。
だが、どうしても体が動いてくれない。足は地面に吸いついたようだった。

前にも同じ事があった。
ネズミに五右ェ門が捕まり、そしてルパンが助けに行った。
五右ェ門は綺麗で真っ直ぐであるがゆえに、人に騙されやすい。
助けに行った時、五右ェ門は酷い拷問を受けていた。
だけど、彼がこちらの情報を敵に渡すことはなかった。
綺麗で真っ直ぐであるがゆえに。
健気で純粋な君。僕を決して裏切らない君。
そんな君を、必ず護ってやろうと決めたのに。
誓ったのに!
僕はまた君を護れなかった―――。
どれだけ高価な宝を盗めても、華麗な手品をやってみせても、この両手は君を護ることは出来ない。
握りしめた手の中の彼の命は、酷く弱々しく細々と見えた。



 








後書き
―――――――――――――――――――――――――――
まだまだ続きます。
五右ェ門が『斬鉄剣は拙者の命』と言っていたので最後の一文でそういった表現をさせて頂きました。