夢を見た。黒くて、恐ろしくて、耐え難い夢――――。
熱い、痛い、苦しい、悔しい………。
だけど、俺は絶対に話してはいけない。
絶対に――――。絶対に――――。
そんな時、雷の中、あの人が現れた。
俺を盗み出すあの人の手……。
優しくて、神のような……あの人の………。



「う……ん……」
ゆっくりと瞼を開ける。
ぼんやりとした視界が広がり、微かに見慣れた天井が認識できた。
安らぐ匂いが鼻をくすぐり、ここが自分の部屋だとすぐに分かった。
「よぉ、五右ェ門、気がついたか?」
ようやくハッキリとしてきた視界に入ってきたのは、夢の中にいたあの男。
「ルパン……。」
五右ェ門は小さく呟いた。
と、その時、五右ェ門はふと自分の左手に温もりを感じ、目だけ動かして左手を見た。
「あ、ご、ごめん!五右ェ門ちゃん。」
握っていた手を慌てて離して、ルパンが謝った。
「いや…有難う。」
五右ェ門がふんわりと微笑んで、ルパンもそれに安心したように微笑んだ。
「俺は…また助けられたんだな…」
五右ェ門がぼんやりと天井を見ながら呟く。その目には、かすかに自分への絶望感が漂っていた。
「俺がしたくてした事さ」
五右ェ門の心情を察し、ルパンが俯いて答えた。
それでも尚、五右ェ門の目は変わらなかった。
「すまなかった…。」
五右ェ門が、ルパンに謝る。ルパンは答える。
「謝ることなんてないさ。俺が勝手にやった事だ。」
それでも、五右ェ門は謝り続けた。頬には涙が伝っていた。
ルパンは涙を拭いながら、五右ェ門の頬を優しく撫でた。
しばらく、そのまま時間が過ぎた。
交錯する思いはもう修正出来ないことを、静かに降る雨のみが知っていた。



 








後書き
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まだまだ続きます。
五右ェ門は本当に自分に厳しそうです。