「そういえば…」
ルパンが肩から腕にかけて五右ェ門の体を拭いていた時、不意に五右ェ門が話しかけた。
「ん?」
ルパンは手を休めずに言葉の続きをうながす。
「赤い月は…どうなったんだ?」
五右ェ門はずっと気にかけていたが、答えを聞くのが恐ろしくて今まで尋ねることが出来なかった事を訊いた。
ルパンは腕を拭くのを止め、背中にまわって傷に触れないよう背中を拭いた。
「赤い月なんかよりお前の方が大事さ。」
精一杯の想いを込めて、ルパンは五右ェ門に言った。
これは、まぎれもない真実で、心から思うことだった。
「…………そうか。」
五右ェ門は少しうつむいて答えた。
後ろからではその表情はルパンには見えない。
しかし、五右ェ門の背中は微かに震えていた。
ポツリ、ポツリと音がする。
窓の外からではなく、タオルからでもなく。
ルパンはそれに見て見ぬフリをした。
五右ェ門の髪は小刻みに震え、たまに押し殺したような泣き声が聞こえてきた。
ルパンは五右ェ門を大切に想う気持ちが、手から彼の背中に少しでも伝われば良いなと想いながら、ただ黙って優しく背中を拭いてやった。
本当に大切だから。好きだから。愛しいから。
赤い月も、女も、金も。
あなたの為なら全て捨ててみせよう。
だって僕が欲しいのは物じゃない。
愛しい、愛しい、あなたの心。



 








後書き
―――――――――――――――――――――――――――
まだまだ続きますー!
今回の話のテーマは、無償の愛とその裏側。(多分)