赤い月の事をルパンに聞いた時、五右ェ門の心臓はドキドキしてどうしようもなかった。
きっとルパンの事だから、無事に盗み出しているはず。
だけどもし自分を助けに来たせいでそれが困難だったとしたら?
ただでさえあの厳重な警備の中で難しいというのに、自分のせいで計画は大いに狂った。
無計画や、その場の思いつきでどうにかなるものとは到底思えなかった。

「―――――赤い月なんかよりお前の方が大事さ。」


……………それは、ある意味決定打だった。
その一言で、もしかしたらという希望も失い、五右ェ門はただただ悔しかった。
自分は世界的大泥棒の顔に泥を塗ってしまったのだ…。
『狙った獲物は逃がさない』
『予告状通りに必ずやって来る』
そんな彼の評判が、自分のせいで一気に崩れてしまった気がした。
彼が予告状通りに行動しなかったのは少なくとも五右ェ門が仲間に入ってからは一度もなかった。ありえなかった。
「(すまない…ルパン……全て俺のせいだ……)」
そう心の中で呟くと、だんだんと視界が歪んで、涙を流す権利もないくせに溢れるものは止まらなかった。
背中から彼の優しさが伝わってくるような気がして、余計に五右ェ門は自分が嫌になった。
ルパンはこんなにも自分を想ってくれているというのに、自分は彼に何も出来ないどころか、彼の仕事の邪魔をしてしまった…。


ルパンが五右ェ門を一人にしてやろうと配慮し、五右ェ門の体を拭き終わり黙って部屋を出て行った後も、五右ェ門はただ打ちひしがれていた。
窓を見れば、黒い雲に空の涙。
「(俺はここにはいない方が良いのかもしれない)」
五右ェ門は、もう彼の側には居られないことを静かに悟った。
天気予報では雨は明日の明け方止むと言っていた。

朝ぼらけの頃、五右ェ門はベッドに温もりを微かに残し、そのまま静かに消え去った。



 








後書き
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まだまだ続きますー!
男同士ゆえの色々と複雑な感情―――お互いにお互いを守りたいと思ったり、迷惑をかけたくないなんて思ったり―――を書きたかったのです。