その笑顔が―嫌いだった。
夜中に突然、俺の部屋に押し掛けてくるこの男のこの笑顔、が。
何もかもが此奴の思い通り。描かれたシナリオ、計算…。
計画通りに事が進んでいる時に、時折見せるこの笑顔。
そして、まれにこの笑顔を俺に見せたりなどしてみせるのだ。

「なぁ、五右エ門ちゃん、いつまでもそんなとこに突っ立ってないで隣に座りなよ。」
ここは俺の部屋なのに…。いつだって物事の主導権はこの大泥棒にあるのだ。
「あぁ。」
ひとまず、言われたとおり隣に座ってみる。
ベッドが二人分の重さに耐えかねて、ギシリと音を鳴らした。
何を企んでいるのか…この男は…。
「…ぷっ、やだなぁ五右エ門ちゃん!俺なぁんにも企んでないよ〜?」
……心を見透かされでもしたのだろうか…。まぁ…良しとしよう。
此奴は何も企んでいないと言うし…。

「(まぁ、あっけなく信じるもんだな…)」

何も企んでいないなどと大嘘を付いた泥棒は、今更ながらに考える。
この侍は人を疑うということを本当に知らない。
まぁ…長年培ってきたルパンの五右エ門からの信頼というのも多少はあるのだろうけど。
しかし、そこが五右エ門の良い所であり、ルパンが五右エ門を好きな部分でもあるのだ。

綺麗で純粋で真っ直ぐな君。

「で、一体何の用だ?」
「あらら、やっぱりただお喋りに来ただけじゃないって分かっちゃった?」
「当たり前だろう。だてにお前と長年付き合っておらんぞ。」
その言葉にルパンは少し嬉しくなり、へにゃりと笑ってみせた。
「そうだねー俺ら本当長い付き合いだよねぇ…。」
急に思考を遠くに飛ばし、泥棒は天井を見上げた。
そして、次の瞬間、今まで見たことも無い真剣な顔つきで五右エ門の方を見、少し低めの声でこう言った。

「好きだ、五右エ門。」

部屋を明るくしていた蛍光灯がプチンと音を立てて消えた。

部屋には、月光―と、侍―と、泥棒―。

空気がやけに冷たかった。

九月の満月の夜だった。



 







後書き
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まだ続きます…。
さぁ、ここからが勝負です。