その姿は蝶に似て、しかし世には醜いとされる。
蛾が美しい明かりに身を焼き、胸を焦がす理由はよく分かる。
しかし俺には…。


「好きだ、五右ェ門。」


隣の部屋から、確かにそう聞こえた。
ルパンが五右ェ門に惚れていたのは知っていた、気づいていた。
だから隣の部屋からこんな台詞を聞いたってどうもしない――はずなのに、俺はなぜだか落ち着かなくて、己の部屋を出てしまっていた。

部屋を出てすぐ、普通の家ならリビングにあたる部屋…作戦室に俺は明かりもつけずに、たたずんでいた。
この複雑な感情は何だろう。別にあいつに惚れているわけでもないのに。
五右ェ門には万有引力、全てを引きつける力があると、昔ふと思ったことがある。
そして、惹きつけられた者はその感情を色んな形で出してくる――ルパンのように恋愛感情、不二子のように姉弟愛。
じゃあ一体俺は…?
ルパンのものとも不二子のものとも違うこの五右ェ門への感情。
俺は作戦室のソファではなく、玄関横のパイプ椅子に腰掛けた。
ここが俺のいつもの座り位置。
あの悪趣味な赤いソファは柔らかすぎて少し落ち着かねぇから。
タバコに火を点けようとライターをカチリと鳴らす。
闇の中に一瞬だけ小さな灯りがつき、またすぐ消えた。
煙草のほろ苦い味が口の中に広がり、煙が肺をめぐり少し落ち着いた。
闇に目が慣れてきて随分と物が見えるようになった。
大きな机に開かれた地図、机を囲むように並べられた三つのソファ、奥に見える俺の部屋のドア、そしてその隣の玄関に近い手前側のドアの中には…。
あいつら今何してるんだろう…そう考えると、また胸がチクリと痛んだ。



 








後書き
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部屋の設定が完全オリジナルで申し訳ありません…。
幾つもあるルパン達のアジトの一つということでお願いします…。